疑念や嫉妬、プライド、弱さなどの人間の心理をうまく描いた1冊。主人公が行きつく最後がどこなのかが気になる重ための作品です。
『邪魔』のあらすじ
及川恭子、34歳。サラリーマンの夫、子供2人と東京郊外の建売り住宅に住む。スーパーのパート歴1年。平凡だが幸福な生活が、夫の勤務先の放火事件を機に足元から揺らぎ始める。恭子の心に夫への疑惑が兆し、不信は波紋のように広がる。日常に潜む悪夢、やりきれない思いを疾走するドラマに織りこんだ傑作。(講談社BOOK倶楽部「邪魔(上)-奥田英朗/著」内容紹介より)
『邪魔』の感想
「夫が放火をしたのでは・・・?」と疑念を抱いたところから日常が変わっていく一人の主婦と、その放火犯を追う刑事を交互に主人公にして物語が進みます。
最初は普通の刑事小説かな?と思って読み進めましたが、主婦が夫に疑念を抱きはじめたあたりからストーリーに疾走感が生まれてどんどんと引き込まれていきました。
主婦・恭子は普通の主婦だったのに、夫への疑念から「なんとしても子どもを守らなきゃ」「自分がやらなきゃ」という使命感にかられて人が変わっていきます。まさに180度性格が変わったようになってしまうのですが、それが恭子の転落人生のはじまり。
スピードが出てしまって坂道を転げ落ちるしかない自転車のように急転落していき、最後は壁に激突・・・のようなストーリー展開です。
普通の主婦のはずだったのになんとあわれな・・・と思ってしまったほどです。
でも人は、あるきっかけで何かのスイッチが入ってしまうことがあるかもな、とも思いました。
『周りが見えなくなって、自分の正義がすべてになって、ふっと気づいた時には大切なものを失っている』
そんな経験ないですか?私はちょっと思い当たることがあって、またそんな状態になっているんじゃないかなという知人にも心当たりがあります(汗)
もう一人の主人公・九野刑事も普通の刑事かと思いきや、実は問題を抱えているというのがびっくりさせられたところ。
二人の主人公が最後どこに行き着くのかが見どころのひとつではありますが、個人的には納得のいくエンディングではありませんでした。好きじゃない終わり方で、そこだけが惜しかったなと思いました。
どちらかというと後味の良い終わり方ではないので、好き嫌いがわかれるかもしれません。
でも、人間なら誰もが持つ疑心感・嫉妬・弱さ・プライド・喪失感などの心の闇をうまく描いた作品です。疾走感もあって、ついついのめり込んで最後まで読み終えてしまう1冊です。