「一度背負ってしまった十字架は、そう簡単には下ろすことが出来ない。」
ズシズシ響いてくる痛みを感じてください。
『十字架』のあらすじ
いじめを苦に自殺したあいつの遺書には、僕の名前が書かれていた。あいつは僕のことを「親友」と呼んでくれた。でも僕は、クラスのいじめをただ黙って見ていただけだったのだ。あいつはどんな思いで命を絶ったのだろう。そして、のこされた家族は、僕のことをゆるしてくれるだろうか。のこされた人々の魂の彷徨を描く長編小説。(講談社BOOK倶楽部「十字架-重松清」より)
『十字架』の感想
最初あらすじを読んで‟いじめ”がテーマだと知ったとき、「重そうだな…読むのがしんどいかもしれない」と思いました。
でもいざ読み始めると、どんどんストーリーにひきこまれていきました。
もちろんテーマがいじめなので、すごく考えさせられる内容です。
いじめの実態や自殺した周りの人間の感情や、その後の行動などがとてもリアル…!
負の連鎖、負のサイクルがすごく感じられて、遺された家族の言いようのない痛みがズシズシと胸に響いてきます。
いじめを苦に自殺をしたフジシュン。いじめを見てみぬふりをしていた僕。フジシュンに先立たれたお父さんとお母さん。フジシュンが死ぬ直前に冷たくあしらってしまった小百合。
彼等に感情移入すればするほど心が痛くなりました。
それでも、この本はたくさんの人に読んで欲しいし、普段読書しない方でも読んで欲しい。
自分は関係ないと思ってきっと日々を過ごしていただろうに、自殺をきっかけに加害者と同じ立場になることだってある。
人一人が死ぬことがどれだけ大変なことなのか、その後の人生にどう左右されるのか。

十字架。なぜこのタイトルになったのか、ちゃんと読むと理解できると思います。
人は生きてれば、何かしらの十字架を背負うものです。
その十字架を自ら強く引き寄せてしまうのか。どれほどの重い十字架を背負うことになるのか?
一度背負ってしまった十字架は、そう簡単には下ろすことが出来ない。
とても重く、そしていじめ、人生について考えさせられる小説でした。
実はこの小説には『核』となった実際の出来事があるそうです。(あとがきで重松さんがおっしゃっています。)
モデルがいたり実話をもとにしているというわけではないようですが、実際にいじめで息子さんを亡くされた男性に重松さんが出会ったことが小説の核となっているようです。リアルさはこのためでしょう。