気付いたら泥沼にはまっていたような重厚感がたまらない、読み応え抜群の1冊です。
『木曜日の子ども』のあらすじ
7年前、旭ヶ丘の中学校で起きた、クラスメイト9人の無差別毒殺事件。
結婚を機にその地に越してきた私は、妻の連れ子である14歳の晴彦との距離をつかみかねていた。
前の学校でひどいいじめに遭っていた晴彦は、毒殺事件の犯人・上田祐太郎と面影が似ているらしい。
この夏、上田は社会に復帰し、ひそかに噂が流れる――世界の終わりを見せるために、ウエダサマが降臨した。
やがて旭ヶ丘に相次ぐ、不審者情報、飼い犬の変死、学校への脅迫状。
一方、晴彦は「友だちができたんだ」と笑う。信じたい。けれど、確かめるのが怖い。
そして再び、「事件」は起きた――。(KADOKAWA「木曜日の子ども-重松清/著」より)

『木曜日の子ども』の感想
読み応え抜群、重厚感たっぷりの物語でした。(実際に分厚い本です)
段々と不穏な雰囲気が漂ってきて、気付いたときには暗闇の中の泥沼にはまり込んでしまっていたような…そんな感じの1冊。
旭ヶ丘の中学校で起きた、無差別毒薬事件。9人が死亡し、21人が入院した凶悪事件の犯人はクラスメイトだった。
7年後、主人公の清水が、妻と妻の連れ子である晴彦と共に、その地へ越してきたことから全ては始まります。
清水は晴彦との距離感に戸惑っていて、父親としてどう接するべきなのか?家族とは?みたいな、家族物語のような感じで最初は話が進みます。
だけど、晴彦が事件の犯人・上田に似ているのでは…?と疑問が出てきたあたりで、物語の空気が変わります。
これから何かが起きるな、と予感させるような雰囲気が漂いはじめたのです。
そして物語は事件を起こした上田が社会復帰し、若者の間に‟ウエダサマ”が降臨。
ここからは実際に事件が起きたり、良い子の皮をかぶっていた晴彦が本性を表し始めたりとミステリーっぽさが増してきました。
正直、このあたりからはずっと恐かったです。
晴彦の何を考えているかわからない様子、これから誰か殺されるのでは?という不安、‟ウエダサマ”を崇めている若者…全てが恐くてゾワゾワしながら読み進めました。
何が恐いって、「わからない」から恐かったんですよね。
物語の肝となる毒薬事件の犯人・上田の考えていることがわからないし、その上田を‟ウエダサマ”といって崇める若者たちの気持ちもわからない。
晴彦は事件に関わっているのか?敵か味方か…?

物語の中にこんな言葉が出てきます。
「『わからない』っていうのは、たまらなく不安なことだよな」
清水は晴彦の考えていることはわからない。だから「恐い」でも「信じたい」。
血のつながらない息子への、父親としての切な想いががひしひしと伝わってきました。
最終的には「信じたい」気持ちが清水を突き動かすのですが、ラストは良い終わりだったなぁと個人的には思いました。
好き嫌いがあるかもしれないけれど、こういう終わりは嫌いじゃないのでスッキリ終えることができました。
「いつもの重松さんっぽくないな」とも思うかもしれませんが、もし読んでみて気に入ったら、『十字架』も読んでみてほしいなと思います。
きっと、重松さんの新たな一面が見れるはずです。
