個々に抱えた苦しみや欲望とともに生きる姿を描いた恋愛小説。2018年4月6日に松坂桃李さん主演で映画が公開されました。
『娼年』のあらすじ
娼夫リョウ、20歳の夏の光と影を描く物語。
虚ろな日々を送る大学生のリョウは、ボーイズクラブのオーナー御堂静香と出会い、娼夫となる。様々な女性が抱く欲望の深奥を見つめた20歳の夏を鮮烈に描き出す恋愛小説。(集英社「娼年-石田衣良/著」より)
『娼年』の感想
娼年となる大学生リョウは女性のどのような願望でさえも否定せず受け入れることのできる心の持ち主であり、クラブのオーナー静香もまた儚い雰囲気を漂わせながら突然真理をついたような言動を取ることのできる魅力的な人物です。
彼らに加え数人の女性も描かれていますが、男性作家であるにも関わらず、やはり女性の感情表現や欲望でさえも精巧に、甘美に表現していて物語にスッと引き込まれていきました。
石田さんの描く女性はこの小説だけでなく、全体を通して個性的でありながらも魅了される存在ですが、この小説もやはり登場人物に魅せられます。
苦しみも欲望も誰も簡単に乗り越えたりはできないことを思い知らされる作品でした。
私たちが日々を生きる中で自分の感情に蓋をしてしまったり、生き辛いと思いことは多々ありますよね。
けれどもそれが虚ろな彩りのない世界でも生きていかなくてはならず、毎日を繰り返さなければいけません。だけど、そのような日々の中にも輝いて見える瞬間は落ちています。
そんな風に思わせてくれる作品だなと感じます。
性描写が多く出てきますが、何か他のためではなくその行為自体が目的となった瞬間が人生の満足度を決める鍵になるのではないかと考えさせられる場面が何度かありました。
人生の幸福や満足度について考える時には、この小説を読んでいる時に感じた自分自身の感情を大きく考慮することになるだろうと思います。
※性描写が多く描かれている作品です。苦手な方はご注意ください。